広島高等裁判所岡山支部 昭和48年(ネ)111号 判決 1974年4月15日
主文
本件控訴(当審における新請求を含む)を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、申立
(一) 控訴人
1、第一次
原判決中第一次請求を棄却した部分を取消す。
被控訴人は控訴人に対し四二万四〇〇〇円およびこれにつき昭和四七年一月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
2、第二次(当審における新請求)
被控訴人は控訴人に対し四二万四、〇〇〇円およびこれにつき昭和四七年五月一九日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
3、第三次
原判決中第二次請求を棄却した部分を取消す。
被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の内容の約束手形一通を振出し、交付せよ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
仮執行の宣言
(二) 被控訴人
主文同旨
二、事実および証拠
当事者の主張および証拠関係は、次のとおり付加、訂正する外、原判決事実欄記載のとおりである(ただし、原判決二枚目裏五行目と三枚目裏二行目の「主張」を「申立」に、同二枚目裏六行目の「左の」を「本判決別紙目録記載の内容の」と改め、同八行目から三枚目表一行目までを削り、同二行目と三行目の「日商」を「日証」に改める)から、これを引用する。
(一) 控訴人
1、原判決三枚目裏三ないし五行にある第二次的主張の内容を次のとおりとする。
控訴人は被控訴人に対して原審において本件喪失手形と同一内容の約束手形一通の交付を求めた(昭和四七年五月一八日に被控訴人に到達の請求の趣旨等訂正申立書による)が、被控訴人はこれを拒否した。
本件訴訟でこれを申立て認容されても、被控訴人はこれに応じない虞れがあり、控訴人には右交付義務不履行に代る損害として、本件手形と同額の賠償請求権がある。
そこで右金員とこれに対する同月一九日以降完済までの前同率の遅延損害金の支払を求める。
2、原判決三枚目裏六行目にある「第三次的主張について」の内容を同三行目ないし五行目の部分とする。
(二) 被控訴人
1、控訴人の第二次、第三次的主張について手形再発行請求権については手形法上の根拠がないから許されない。
2、西部機電社から本件手形を紛失したとの申入れがあつたので、被控訴人は昭和四六年一月三一日に同社に本件手形金を支払つた。
理由
一、被控訴人が本件手形を振出したこと、控訴人が右手形を失つたとして除権判決を得たことは当事者間に争いがないので、これにより控訴人は本件白地手形の所持人としての地位を回復したことになる。被控訴人が本件手形を交付した相手方につき争いがあるが、この点は前記判断を左右するものではない。
二、控訴人は、本件手形の白地部分を補充した、というが、白地手形の補充は手形面の該当欄に行うべきものである(最高裁判所昭和四三年四月一二日第二小法廷判決参照)ところ、控訴人のいう補充がこれに当らないことは本訴の経過から明白であるので、右補充は有効なものといえず、したがつて控訴人は本件未完成手形を所持するにすぎないので、控訴人の第一次の手形金請求は理由がない。
三、控訴人の第二、三次請求は、手形につき除権判決を得たものが、振出人に対して、当該手形と同内容の手形の再交付を求め得ることを前提とするので、この点につき検討する。
1、これに関しては実定法(手形法および公示催告手続を規定した民事訴訟法等)に特段の規定はない。
2、民事訴訟法七八五條には、除権判決があつたときは、申立人が証書により義務を負担する者に対して証書による権利を主張することができる旨規定してあり、この意味についても見解の分れるところであるが、当裁判所は、手形の場合においては、申立人は、喪失手形を現実に取戻すことなくして、手形の最終所持人たる資格を回復する、という効果を定めたもので、それに尽きるものと解する。
3、したがつて、手形が完全手形である場合には、除権判決によつて申立人は手形金請求権を行使し得る地位を取得するが、白地手形を喪失した場合には、除権判決があつたからといつて、二記載のとおり、白地を補充する方法がないから、申立人は手形金請求権を行使するに由なく、単にその後の喪失手形の善意取得を防止する効果を生ずるに過ぎないものというべきである。
4、この点につき、喪失白地手形につき除権判決があつた場合に申立人が、手形面に補充をしないで、他の方法により補充することを認め、あるいは振出人に対して白地手形の再発行請求権を肯定した上、新手形に補充する等の方法により手形喪失者を保護しようとする見解があるが、これを白地手形についてだけ容認することは完全手形の場合と均衡を欠き(完全手形の場合にはその必要性が薄い)、また手形喪失のすべての場合に手形再発行請求権ありとすることは、手形を回復することに帰し、新手形の流通の可能性等とも合わせ考えると、申立人に除権判決の効果以上のものを付与することになり、相当ではない。
5、これに関し、商法二三〇条二項の規定は株券喪失者が除権判決を得た場合にはその再発行請求権があることを前提としているが、株券と手形とはいずれも有価証券である点においては同一であるが、前者は株式会社における構成員たる株主の地位、株式を表章するものであるに対し、後者は単に手形関係者の金員請求権を証券化したもので、その間に性質上の差があり、根拠法も相違するもので、右法条をただちに手形に類推適用することはできないものと解するのが相当である。
6、以上の次第で、当裁判所は手形もしくは白地手形につき除権判決を得たものに手形の再交付請求権があるものとはいい得ないという見解を採るものである。
したがつて、控訴人の第二、三次請求も、その他の点を判断するまでもなく、失当ということになる。
四、したがつて、これと同旨の原判決は相当であるので、本件控訴および当審における新請求を棄却することとし、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
別紙
目録
一、額面 四二万四、〇〇〇円
二、満期 昭和四五年一二月三一日
三、支払場所 岡山相互信用金庫旭東支店
四、支払地 岡山市
五、振出地 岡山市
振出日と受取人は白地